
名古屋鉄道株式会社(以下 名古屋鉄道)は、愛知・岐阜両県にまたがる鉄道路線網を有し、中部圏の交通ネットワークの一翼を担う鉄道会社です。同社では現在、約700ページにおよぶ規程類や業務資料を新世代情報共有アプリ『Handbook X』で完全電子化し、約1,500名の乗務員へ展開しています。
このペーパーレス化の根底にあるのは、「ITツールの導入はあくまで手段であり、最大の目的は、乗務員が『お客様へのサービス向上』や『安全運行』という本来の業務に集中し、自ら考え判断できる自律的な現場環境を作ること」という強い想いです。
今回は、ツール導入による月単位の準備時間削減や、現場の心理的負担の軽減、そして導入浸透に向けた工夫について、運転保安部の梅村篤史氏にお話を伺いました。
アカウント管理と端末運用の課題をクリアし、約1,500名の現場での現場DX推進
多くの企業が現場のペーパーレス化やデジタル化を進める際、「社員全員分の会社用のメールアドレスがない」「年配の社員が機械の操作に不慣れで導入ハードルが高い」といった壁にぶつかります。
名古屋鉄道では、メールアドレス不要で運用可能なHandbook X取り入れました。さらに、現場の指導役を通じた丁寧な説明を徹底することでこれらの壁を乗り越え、約1,500名の乗務員へスムーズにデジタル環境を浸透させています。
Q. 現場の乗務員へ導入を進めるにあたり、どのような環境の課題がありましたか?
A. まず、乗務員全員が個人の会社用メールアドレスを持っているわけではない、という点です。
一般的なアプリは登録にメールアドレスが必要なことが多いですが、『Handbook X』は メールアドレスがなくても、任意のIDとパスワードだけで利用できます。
多くの係員を抱える弊社にとって、この仕様は導入や管理のハードルを大きく下げる 非常に重要なポイントでした。
また、端末の運用面においても、個人の所有するデバイスからのログインを制限できる点など、セキュリティをしっかりと保ちながら安全に使用できる点が大きなメリットでした。
Q. タブレットの操作に不慣れな方も多かったかと思いますが、現場への浸透はどのように進めましたか?
A. 確かに最初は「操作方法が分からない」「外でインターネットに繋がらなくなったら不安」 といった心配の声もありました。 そのため、頭ごなしに強制的に使わせるようなことはせず、丁寧にメリットを説明することを 心がけました。
具体的には、現場管理者や現場のことを一番理解している指導役の主任に、 しっかりと説明して納得してもらったうえで、 各乗務員へ使い方を展開してもらうという丁寧なステップを踏みました。
Q. 操作に迷って使われなくなってしまう心配はされませんでしたか?
A. 複雑すぎるシステムだと現場で使われなくなってしまいますが、『Handbook X』は余分なボタンがなく、「ここを見ればいい」と直感的に分かるシンプルな画面設計になっています。
この見やすさと操作のしやすさが、現場の使いやすさや資料を見るハードルを下げることに直結していると感じています。

Q. 現場の意識が前向きに変わったターニングポイントは何だったのでしょうか?
A. 実際に現場で使ってみて、「約700ページの重い紙資料を持ち歩いていたものが電子化によって、一気に軽くなった」という実体験を全員が得られたことです。
また、DXをけん引していくような方が、現場にいたことも大きなポイントだと思います。
一度メリットを肌で感じてからは現場の空気も変わり、今では「どうすればより一層業務の効率化を図れるか」という前向きな質問が多くなっています。
Q. 今回の業務のDX化を通じて、最終的に目指しているゴールを教えてください。
A. ITツールを入れること自体がゴールではありません。
導入によって無駄な負担を減らし、乗務員一人ひとりが「お客様の安心安全と安定輸送を第一に考える」という本来のサービス提供により注力できる環境を整えることが重要だと考えています。これが私たちの目指す一番のゴールです。
資料更新の圧倒的な業務効率化とオフライン利用可能な安心感。
約1,500名の乗務員へ改訂した規程類などの数百ページに及ぶ紙資料を配るには、膨大な時間とコストがかかり、 現場にとっても重い資料の持ち運びや差し替え作業、確認作業が大きな負担となっていました。
さらに、端末も一人一台配布されているわけではなかったので、複数人での共有が出来る運用が必要でした。名古屋鉄道では、資料の電子化によってこれまで2〜3週間かかっていた準備期間をなくして「アップロードするだけ」の環境を実現。さらに、電波の届かない場所でも確実に資料を確認できることで、大幅な業務効率化と乗務員の心理的な安心感を生み出しています。
.png)
Q. 導入前は、それらの紙資料の準備や更新にどれくらいの時間や手間がかかっていましたか?
A. 以前は乗務員一人あたり約700ページもの規程類などの携行資料がありました。約1,500人の乗務員がいるため、たとえ数ページの更新であっても、全体では数千ページ分の印刷が発生してしまいます。業者での印刷から内容の確認、各乗務員への配布、そして現場での差し替え作業までを含めると、準備から乗務員の手元に届くまで最低でも2〜3週間はかかっていました。
Q. 電子化されたことで、資料更新にかかる時間やコストはどのように変わりましたか?
A. 資料を『Handbook X』にアップロードするだけで済むようになったため、これまでかかっていた2〜3週間という月単位の準備時間が丸々削減されました。
もちろん、年に最低でも1回は発生していた数千ページ分の印刷コストも大幅に削減されています。
Q. 端末が一人一台ではない環境とのことですが、運用面での工夫はありましたか?
A. 約1,500人全員分のタブレットを揃えるとなると、莫大な初期費用がかかってしまいます。しかし、『Handbook X』はアカウントを切り替えることで、一つの端末を複数人で共有して安全に利用することができます。デバイスと個人を紐付ける必要がないため、端末にかかるイニシャルコストを大幅に抑えながら、現場全体でスムーズに運用開始することができました。
Q. 現場の乗務員の方々の業務には、どのような変化がありましたか?
A. 最も大きな変化は、必要な情報にすぐ辿り着けるようになったことです。これまでは分厚いファイルの中から目当てのページをパラパラとめくって探していましたが、今では目次からすぐに検索できるようになりました。また、以前は規程が変わるたびに「古い紙を抜いて新しい紙を差し込む」という面倒な作業がありましたが、今は手元のコンテンツが最新に保たれるため、情報の確認がとてもスムーズになっています。
Q. 常に電波が届くとは限らない現場において、オフラインでも閲覧できることは重要ですか?
A. はい、非常に重要です。現場の仕事は、地下や山間部、入り組んだ施設内など、インターネットが繋がりにくい環境である可能性もあります。万が一通信が途切れたり、イレギュラーな事態が発生したりした際にも、オフラインで確実にマニュアルや規程を確認できることは、「手元の端末を見れば大丈夫」という現場の心理的な安心感に直結します。
どんな環境でも確実に情報を引き出せることは、現場作業を支える上で欠かせない要素です。
シンプルな操作性で現場に浸透。タブレットをきっかけに世代を超えたコミュニケーションを実現
システムを導入しても、操作が複雑だと現場では使われず、 「ただデータが置かれているだけ」の死んだ状態になってしまいます。
『Handbook X』は直感的に使えるシンプルな画面設計のため、年配の社員でも抵抗なく利用できます。
さらに名古屋鉄道の現場では、タブレットの導入をきっかけにベテランと若手が互いに教え合う ような世代を超えたコミュニケーションが生まれています。

Q.現場でしっかりと資料が活用されている理由はどこにあると感じますか?
A. 最も大きいのは、誰もが直感的に操作できるシンプルな画面設計です。
どんなに良いシステムでも、複雑すぎると現場では使われなくなってしまいます。
『Handbook X』は余分なボタンがなく、「ここを見ればいい」と直感的に分かるため、 機械の操作に不慣れな年配の社員などにも抵抗なく利用してもらえています。 この見やすさや使いやすさが、現場での紙の電子化に対するハードルを下げることに直結してい ると感じています。
Q. タブレットを導入したことで、現場のコミュニケーションに変化はありましたか?
A. はい、とても良い変化がありました。これまでは、業務に関して「ベテランが若手に教える」という一方通行のコミュニケーションが基本でした。
しかし、タブレットを導入したことで、年配の社員が若い世代に「これ、どうやってやるんだ?」と操作方法を聞くような、 これまでになかった「若手からベテランに教える機会」が現場で増えています。
Q. そうしたコミュニケーションが生まれたことで、職場に良い影響がありましたか?
A. 世代を超えて教え合うことで現場がITツールに慣れ、自発的な業務改善のアイデアが出るようになりました。例えば、「これまで口頭で行っていた休暇申請を、オンラインの連携フォームで一覧化してはどうか」といった、現場主体の新しい提案が出始めています。単なる資料を見るためのツールが、現場の空気を前向きにするきっかけになっています。
動画を活用した教育資料の拡充へ。
さらなる安全運行とサービス向上を目指す
Q. 最後に、今後の展望を教えてください。
A. ペーパーレス化によって現場の負担を減らすという最初の目標は達成できたので、今後は「教育面」での活用をさらに広げていきたいと考えています。
具体的には、教育資料として「動画」のコンテンツをどんどん増やしていく予定です。文字や写真だけではどうしても伝わりにくい業務の手順や一連の動作を動画にすることで、緊急事態が発生した際にも、現場で直感的に動けるような分かりやすい資料を整えていきます。
また、紙で実施していた業務知識の理解度テストも『Handbook X』を使った運用へ移行し始めています。これが本格的に活用できるようになれば、手作業で行っていたテストの回収や集計の手間がなくなります。さらに、データを分析することで「どの乗務員が、どんな業務を苦手としているか」がすぐに分かるようになるため、一人ひとりに寄り添ったより的確で丁寧な指導ができるようになります。
こうした取り組みを通じて、現場の教育体制をよりスマートにし、私たちの最大の目的である「安全・安心・安定輸送」と「お客様へのサービス向上」をこれからも追求していきたいです。

